概要
- アメリカの高校生
高校: 四年制
選手: 部活とAAUでプレー - 選手とコーチのコミュニケーション: 制限が多い
- リクルートの流れ
高2(日本の高1相当)から段階的に開始 - コロナ禍のリクルート活動
アメリカのカレッジバスケットボールはコート内以上にコート外の争い(=選手の勧誘)が熾烈だ。現在、多くの中高生はアピールのために高校の部活とAAUクラブのどちらでもプレーし、一方でコーチ達は良い選手をリクルートしてチームの強化を目論んでいる。時にリクルートは選手とコーチに加えてスポーツ代理人やスポーツブランドが絡む大規模の収賄に発展してFBIが動くこともある。そのため、NCAAはコーチのリクルート活動を厳しく制限している。例えば、選手とコーチは自由に対面や電話でコミュニケーションが図れる訳では無い。
アメリカの高校の基礎知識
アメリカの高校は四年制
学年 | 呼称 | グレード | 日本 |
高1 | フレッシュマン Freshman | 9年生 (9th Grade) | 中3 |
高2 | ソフォモア Sophomore | 10年生 (10th) | 高1 |
高3 | ジュニア Junior | 11年生 (11th) | 高2 |
高4 | シニア Senior | 12年生 (12th) | 高3 |
アメリカの高校は基本的には四年制だ。但し、必ずしも四年制であるわけではない。アメリカの場合、小学校-中学-高校が合計12年である点は日本と同じなのだが、各教育が何年間なのかは州、学区、学校によって異なる。
アメリカの高校の1年
月 | 学期 | バスケットボール |
6~8月 | 夏休み | AAUやキャンプ |
9月~11月末 | 学期 | |
11月下旬 | 感謝祭休暇 | |
12月 | 学期 | 高校 |
12月末 | クリスマス休暇 | 高校 |
1~3月 | 学期 | 高校 |
3~4月 | 春休み | 高校オールスター開催 |
4~6月 | 学期 | AAU |
アメリカの高校の1年は夏休み(6月~8月)とアカデミックイヤー(9月~6月)が基本だ。それ以外の細かな部分(学期制、カリキュラム、アカデミックイヤー中の休暇)は学校によって様々である。バスケットボールのシーズンはクラブチームと高校の部活の主に2つある。高校生達は学年が変わる頃(4月~7月)にクラブチームでアマチュア・アスレティック・ユニオン(AAU)管轄の大会に出場し、その後新学期が始まってしばらく経過した12月~3月に高校の部活でプレーする。
AAU
大学でのプレーを目指す高校生達は高校部活以外にAAUチーム(所謂クラブチーム)にも所属するのが当たり前になっている。AAU(Amature Athletic Union)とはユーススポーツの大会を組織している非営利組織だ。AAUは元々はアマチュアスポーツ全般のリーダーシップを執っており、オリンピックにプロ選手が出場できなかった時代には幅を利かせていたが、現在は専らユーススポーツに特化している。
AAUチームは全米中に無数にある。しかも各クラブはそれぞれU17、U16、U15のチームを持っている。レベルも「NBA選手を多く輩出~NCAA D1を目指す」まで様々だが、どこみ入団時にトライアウトがあるため、自分の希望したクラブに入れるとは限らず、地元の全クラブに入れないケースもザラだ。
AAUの大会は4~7月に行われる。各クラブは全米各所で行われる大会の中からいくつもの大会に参加する。典型的な日程は3、4日間程度で多ければ1日に4試合がスケジュールされている。つまり、高校生達はプロ選手のように全米中を飛び回って試合をしている。故に、AAUのシーズンや大会の別名はサーキットだ。AAUクラブはトラベリングチームと呼ばれる。
そして、最もハイレベルなのがナイキ、アディダス、アンダーアーマーの三社が各々主催するサーキットだ。上記の三大サーキットは、全米数か所で予選ラウンドを行った後、AAU大会を積極的に誘致している南部のジョージア州、アラバマ州、サウスカロライナ州で決勝ラウンドが行われる。カレッジコーチ達は選手を評価する際にこの三大サーキットでの戦いぶりを最重要視している。理由はシンプルに激しい競争があるからだ。だから、高校生達もAAUクラブのコーチ達もここでの戦いに全力を注ぐ。

高校の部活
高校の部活はバーシティ(Versity)とジュニアバーシティ(Junior Virstiy)の両方がある。一般的にはバーシティは1軍、ジュニアバーシティ(JV)は2軍だが、学校によってはバーシティを最高学年(高校4年生)だけ、JVを3年生以下のチームとしている学校もある。部員が多い学校にはJV2や下級生チームがある場合もある。
近年では私立高校や地元のバックアップを受けた公立校のパワーハウス化がエスカレートしている。例えば、当初のパワーハウスは州内の有望選手達を集める程度だったが、次第に全米中からリクルートするようになり、現在ではIMGアカデミーのようにアフリカ、ヨーロッパ、アジアから選手を呼んでいる超巨大な学校も増えてきた。同時に選手達もより良い環境を求めて積極的に転校するようになった。
高校のシーズンは11月~3月にリーグ戦とプレーオフを行って州王者を決めるまでが基本だ。日本のような全国大会は無い。但し、最近はステイトチャンピオン決定戦すら無い。ほとんど州は学校の規模に応じたディビジョン制を敷いているからだ。
一方、感謝祭休暇、クリスマス休暇、州大会終了後には強豪校を招待したショーケースが行われる。特に3月末の大会は実質的な全米No.1決定戦となっている。そして、最後にマクドナルド・オール-アメリカン、ジョーダン・ブランド・クラシック、NIKE HOOP SUMMITの三大オールスターゲームが開催されてシーズンは幕を閉じる。
その他
キャンプ(夏休み)
夏休み中、子ども達はAAUクラブ、スキルコーチ、大学が開催するキャンプやクリニックにも参加して腕を磨く。各大学がキャンプを主催する理由は有望な選手を探すためにほかならない。
高校生オールスター(夏)
AAUサーキット終了後(主に8月)に高校生オールスターゲームが開催される。但し、3月末~4月のマクドナルド・オール-アメリカンのような定着している物は無い。
サマーリーグ
また、高校生達はAAUサーキット同時並行して地元のサマーリーグにも参加している。通常、サマーリーグで高校生達は高校生同士や大学生と試合を行うが、マービン・バグリーのような一部の有望な選手達はプロや大人たちに混ざってハイレベルのプロ-アマリーグに参加する。
秋季リーグ
Chikara Tanaka (21’) 6’2” PG clearly one of the best on the court with great ability to finish and able to spread the floor with a consistent and balanced shot. A player to keep in eye on. @WCE_JS @RyanSilver1 @CoachSimon2 @SC_Hoops18 @AllAcademicBB @BeTheBeastBTB @JasonS_ZG #AAB pic.twitter.com/lFzlx0XqTD
— Aaron (@pearlsteinaaron) August 29, 2020
さらに、秋にはフォールリーグと呼ばれる大会も開催されている。フォールリーグはAAUや高校の部活程重要視されているわけではないが、一部の高校生達がアピールの場、練習、高校シーズン前の調整として参加している。
コーチと選手のコミュニケーション
コミュニケーション方法
コーチと選手のコミュニケーションに制限がある
大学案内を送る
コーチ達はいつでも選手に大学案内を送ることができる。
口頭オファー
コーチ達はいつでも選手に口頭でオファーできる。
選手からコーチへ電話
選手や選手の家族が大学のコーチへ電話を掛けるのはいつでも可能だ。
コーチから選手へ電話
一方、コーチから選手や選手の家族への電話はその選手が高校2年生から3年生に進級する年の6月15日からとなっている。言い換えれば、高校2年生の間まではコーチは選手に電話を掛けることができない。つまり、コーチは高校2年生を終了した直後から選手に電話を掛けることが可能だ。
キャンパスの外で会う
コーチが選手と大学のキャンパス外で直接会うのはその選手が高校3年生の学期の初日からとなっている。通常、対面する場所はその選手が通う高校だ。
キャンパス訪問(トライアウト)
公式訪問(Official Visit)
公式大学訪問は大学側が費用(移動費、宿泊費、食費等)を負担する形で選手が大学を訪れることだ。選手が大学を公式訪問できる時期は2つある。1つは高校3年生が始まる年の8月1日から高校3年生のシーズン終了までだ。その間、選手は最大5校に公式訪問することができる。もう1つは3年生のシーズン終了翌日から高校4年生のシーズン開始前の10月15日までで、この間も選手は最大5校への公式訪問が許されている。ちなみに、公式訪問には最大2名までの家族の同行が許可されている。
非公式大学訪問(Unofficial Visit)
非公式訪問は選手や同行者が実費での大学訪問だ。非公式訪問は高校2年生になる年の8月1日から可能である。回数や時期の制限は無い。ちなみに、高校4年生や編入を狙う大学生(短大生含む)はトライアウトのために非公式訪問をすることが多い。
進学先の決定
コミット(バーバルコミット)
Final 7‼️🤟🏼 Thankyou to all the coaches who have recruited me to this point🙏🏼@TiptonEdits pic.twitter.com/hHWnlSaVIU
— chet holmgren (@ChetHolmgren) June 26, 2020
コミットはリクルートが特定の大学への入学意思を表明することだ。但し、コミットは厳密にはバーバルコミット(=口約束)なので法的な拘束力は無い。リクルート達はいつでもコミットとデコミット(撤回)ができる。通常、進路先が注目されるリクルート達はいくつかの段階を経てコミットを表明する。例えば、2021年高卒組(Class of 2021)のトッププレイヤーの1人シェット・ホルムグレンは2020年6月に進学先候補7校を発表した。今後、ホルムグレンはさらに3~5校に絞った発表、あるいはコミットを発表するはずだ。
ナショナル・レター・オブ・インテント(National Letter of Intent)
11月中旬: アーリーサイニングピリオド
4月中旬~5月中旬: レギュラーサイニングピリオド
リクルートはサインニングピリオド中に選手がナショナル・レター・オブ・インテント(通称NLI)にサインすることで全行程が終了する。NLIへの署名によって双方は「署名した選手が最低1年間その大学に通う」と「大学側は全ての大学生活費用(入学金、テキスト代、寮費、食費、その他最低限の雑費)を負担する」で合意したとみなされる。但し、NLIは正式な契約書では無いため法的な拘束力は無い。
リクルーティングカレンダー

クアイエットピリオド(Quiet Period)
クアイエット期間はコーチ達は自分達のキャンパス内でしか選手をリクルートすることができない期間だ。つまり、選手をキャンパスに招く以外の方法で選手とコミュニケーションができない。
デッドピリオド
デッドピリオドは電話、テキストメッセージ、手紙以外でのみ選手やその家族と連絡できる期間だ。デッドピリオドは祝日と4月と7月の重要な大会の時期に設けられている。
イバリュエーションピリオド
イバリュエーションピリオドはキュンパス外での選手との接触が禁止されている期間だ。
リクルーティングピリオド
リクルーティングピリオドではコーチは実際にリクルートの高校に訪れて試合を生観戦することができる。
タイムライン
高校2年生(日本の高校1年生)
AAU(4~7月)
春~夏、高校2年生(厳密に言えば6月までは高校1年生)はAAUクラブのU15でプレーし、各大学が開催しているキャンプやクリニックに参加したり、あるいは地元の教会リーグでプレーする。
高校の部活(11~3月)
その後、高校の新学期が始まって以降はその高校の部活でプレーする。
高校3年生(日本の高校2年生)
春夏(4~7月): コーチ→選手へのコミュニケーション解禁
春~夏、高校3年生はAAUのU16でプレーする点は変わらないが、この時期からカレッジコーチ達から選手へ電話やテキストメッセージを送ることが解禁されるため、選手達はカレッジコーチ達から「興味がある」と伝えられたり、プレーに関してのフィードバックを受けながら大会に臨む。秋~冬には公式訪問も解禁になる。
夏休み~秋(8~10月): オファーが届く&フォールリーグ
サーキット終了以降、選手の下にはサーキットでのパフォーマンスのフィードバックや口頭オファーが届く。さらには公式訪問が可能となる。一方、一部の選手はフォールリーグで高校のシーズンの調整を行う。
冬(11~3月): 高校シーズン
高校3年生は高校の部活でプレーする。一方、一部の選手は公式訪問を行う。コミットも発表する選手も極一部ではあるが存在する。
高校4年生(日本の高校3年生)
春夏(4~7月): AAU
高校生達は最後のAAUシーズンに臨む。
夏休み~秋(8~10月): オファーが届く&フォールリーグ
基本的には高校3年次と変わらない。
冬(11月~3月+4月)
高校4年生達は最後のシーズンを迎える。一方、多くの選手達はシーズン中にコミットを発表する。
シーズン終了後(4~6月)
シーズン終了後、NCAA D1とD2校へ進学する選手達は4~5月のサインニングピリオドにナショナル・レター・オブ・インテントにサインする。その後、6月に卒業式がある。
ポスト-グラデュエート生
コロナ禍
リクルーティングカレンダー
— Letter of Intent (@NLIinsider) January 15, 2021
2020年3月~2021年5月31日
結局、2020-21シーズンは何度かのデッドピリオド延長の末、2020年3月~2021年5月31日までデッドピリオドとなってしまった。つまり、コーチとリクルートは直接会うことはできなかった。大学訪問は代わりにズームを利用したバーチャル訪問となっている。NLIの署名時期も2021年4月14日~8月1日までに後ろ倒しになっている。
2021年6月1日以降
2021年4月、NCAAはNCAA D1に関しては2021年6月1日から通常のリクルーティングカレンダーに戻すと発表した。
高校の部活
2019-20
2019-20は2020年3月頃から各州で高校のシーズン中止が相次いだ。マクドナルド・オール-アメリカン、NIKE HOOP SUMMIT、ジョーダン・ブランド・クラシックも相次いで中止が発表された。
2020-21
2020-21は一部の州だけが大会や試合を行っている。一部の高校生達は試合を行っている州の高校へ転校している。オールスターゲームはアイバーソン・クラシックは開催される予定だ。その他は選抜メンバーの発表こそあったが、試合自体は2020年に引き続き中止となってしまった。
AAUサーキット
2020年
2020年のナイキ、アディダス、アンダーアーマーのAAUサーキットは春夏共に全てが中止となった。他のAAUサーキットや代替的な大会が僅かながら開催されているが、一部を除いてはカレッジコーチ達の入場は禁止となり、観戦はオンラインが主となった。
2021年
2021年4月、一部のAAU大会は開催されている。
コミット
2020-21
コミットが例年よりも早まった。通常、高校4年生達がコミットを表明するのは高校のシーズン中だが、州によっては大会が中止になっており、学校によっては州大会の代わりとなる大会への参加もしていないこともあるため、夏休み中に相次いでコミットが発表された。加えて、一部のリクルートは12月に高校を卒業して1月から大学に入学している。
影響
2020-21
一部のコーチ達(特にハイメジャー校)は代替の大会のレベルの低さに嘆いているようだ。三大サーキットの最大の魅力はレベルの高さである。コーチ達は選手がハイレベルな環境でどれだけやれるのかをチェックしたいのだ。
同時に名を挙げようとしていた選手達も失望している。三大サーキットは無名の選手が全国区になるチャンスである。これらの大会の活躍によって一気に有名になったケースも少なくない。例えば、コリン・セクストンは、2016年のEYBLの活躍で一気にトップリクルートの一人に躍り出て、その約2年後にはNBA入りを果たした。
一方、ミッドメジャーやローメジャー校のコーチ達にはチャンスでもある。彼らは地元の選手達を中学生の頃からチェックしているが、往々にして彼らが成長して名が全米中に知れ渡ってしまえば、自分達の所では無く、ハイメジャー校に入学してしまう。しかし、今回のパンデミックで名を挙げるチャンスを失った彼らが、仕方なくではあるが、自分達の大学を選んでくれる可能性があるからだ。
まとめ
- アメリカの高校生
高校: 四年制
選手: 部活とAAUでプレー - 選手とコーチのコミュニケーション: 制限が多い
- リクルートの流れ
高2(日本の高1相当)から段階的に開始 - コロナ禍のリクルート活動
アメリカのカレッジバスケットボールはコート内以上にコート外の争い(=選手の勧誘)が熾烈だ。現在、多くの中高生はアピールのために高校の部活とAAUクラブのどちらでもプレーし、一方でコーチ達は良い選手をリクルートしてチームの強化を目論んでいる。時にリクルートは選手とコーチに加えてスポーツ代理人やスポーツブランドが絡む大規模の収賄に発展してFBIが動くこともある。そのため、NCAAはコーチのリクルート活動を厳しく制限している。例えば、選手とコーチは自由に対面や電話でコミュニケーションが図れる訳では無い。

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バスケ留学解説

NCAAの視聴方法

参考
アメリカの高校のスケジュール(ryugaku.com)
Which AAU Circuit is King?(competitive-greatness.com)
Recruiting(ncaa.org)
NCAA Recruiting Rules: When Can College Coaches Contact High School Athletes(ncsasports.org)
Initial-Eligibility Rules Involving Tryouts(ncaa.org)
NCAA Division I Men’s Basketball Recruiting Calendar(ncaa.org)
Playing and Practice Seasons(brownbears.com)
What Is the NCAA Dead Period?(ncsasports.org)
Playing the NCAA Game: Rules for Recruitment(fastweb.com)
College Basketball Coaches, Recruits Left in a Tough Spot Amid Shutdown(si.com)
Without summer recruiting, college basketball teams and prospects at a disadvantage(espn.com)
Elite Players Feel Cheated After COVID-19 Pandemic Forces Cancellations to Spring Tournaments(si.com)
DI Council extends recruiting dead period through May 31(ncaa.org)
Division I to return to recruiting activities June 1(ncaa.org)
Iverson Classic Announces History-Making 2021 All-American Rosters(iversonclassic.com)
