うい。現地観戦研究家のBall Otaku Bros(@b_o_bros)だ。
最初に断っておくが、本来、このブログはバスケオタクが低予算で現地観戦を達成するためのガイドブックである。
ただ、カレッジバスケは何の予備知識も無しには楽しめないし、NBAと比べてプレーの質が遥かに劣る試合を観に行く気にはなれないと思う。
と言うことで、この度、「NCAA基礎講座」と題してアメリカのカレッジバスケについて解説&紹介することにした。
これらの記事で基礎知識を身に着けて、自分の好奇心の赴くままに歴史、コーチのスタイル、戦術、各大学のカルチャーetcをディグり、最終的に現地を訪れてもらえれば幸いだ。

と言うことで、今回は大学体育協会についてだ。
はじめに: アメリカの大学の基礎知識
アメリカの大学事情
大学総数: 約4400校(約20万人)
4年制大学: 約2800校(約14万人)
短期大学: 約1600校(約6万人)
現在、アメリカには一般的な4年制大学と1~3年制の短期大学(通称JUCO)の合わせて約4400校の大学が存在し、毎年約14万人が4年制大学、約6万人が短期大学に籍を置いている。
4年制大学の中には大学院が付属している所もあり、大学院生は約2万人が存在していて、学生アスリート達の中には大学院生もいる。
大学の種類
四年制大学: ユニバーシティとカレッジ
四年制大学は読んで字のごとく順調に進めば4年間で卒業できるカリキュラムの大学だ。複数の学部を持つ大学はユニバーシティ、1つの学部しかない大学はカレッジ、そして工科大学や士官学校はインスティチューションを名称に用いている。
総称として大学と使う場合はカレッジを使用するのが一般的だ。例えば、大学生であればカレッジスチューデント、大学バスケはカレッジバスケットボールといった感じである。
短期大学: 通称ジューコー
一方、短期大学はジューコー(JUCO)と呼ばれている。短大にはジュニアカレッジ(Junior College)、コミュニティカレッジ(Community College)、ステイトカレッジ(State College)などさらに細分化されるのだが、一般的には区別されずに1~3年制の大学は総じてジュニアカレッジ(JUnior COllege)と呼ばれていて、それが略されてジューコー(JUCO)となった。
大学体育協会: 大学スポーツを運営する組織
そして、もし大学が自身が運営する運動部に試合や大会に参加させたい場合、その大学はどこかしらの大学体育協会に加盟するのが常となっている。
大学体育協会は大学スポーツを運営している組織だ。大学体育協会は大学同士のトーナメントやリーグ戦を運営している。競技はバスケだけでは無く、アメリカンフットボール、野球、レスリング、ゴルフなど多岐にわたる。
大学体育協会はアメリカ国内に複数存在する。つまり、大学体育協会はNCAAだけではない。
主な大学体育協会
NCAA: 全米最大の大学体育協会
NAIA: NCAAに次ぐ大学体育協会
NJCAA: 短大を組織する協会
おそらく多くの人が「アメリカのカレッジバスケ=NCAA」と認識していると思うが、NCAAよりも歴史が古いNAIA、短大のNJCAA、キリスト教系の大学を組織するNCCAA等、NCAA以外の大学体育協会はいくつもあり、各大学は自分達の判断でどこに所属するかを決めている。
とは言え、NCAA以外は語られないのが現状だ。だから、「アメリカのカレッジバスケ=NCAA」でも問題無いと言えば問題無い。「大学体育協会はNCAAだけでは無い」ということさえ知っていれば大丈夫だ。
大学体育協会に所属せずに活動するサークル的なクラブも存在する。例えば、故スティーブ・ジョブスが通っていたことで知られるリードカレッジ(Reed College)の場合、バスケ部はどこの大学体育協会にも所属しておらず、練習は同校の学生であれば全員が気軽に参加でき、試合は近くの同じようなクラブと対戦する形式となっている。
NCAA: 全米最大の大学体育協会
概要
名称: National Collegiate Athletic Association
所属校: 約1200校(バスケ部は約1100)
ディビジョン: 3部制
本部: インディアナ州インディアナポリス
HP: https://www.ncaa.com/
NCAA(National Collegiate Athletic Association)は全米最大の大学体育協会だ。NCAAには常に約1200校が所属し、その内の約1100校がバスケットボール部を運営している。その中には極僅かだがカナダ、メキシコ、プエルトリコの大学もある。
所属校数に「約」で曖昧になっている理由は加入や離脱が頻繁にあるために毎年その数が変動しているからである。NCAAは所属校約1100校を300校ずつ程度の3つのディビジョン(Division Ⅰ(ワン)、ディビジョンⅡ(ツー)、ディビジョンⅢ(スリー))に分類して運営していて、各ディビジョン内でリーグ戦とNCAAトーナメントが行われている。
ディビジョン
ディビジョン | 所属校 (大学規模) | カンファレンス | 奨学生 | シーズン (試合数) |
D1 | 350校 (大~小) | 32 | 最大13名 | 10月中旬 ~4月上旬 (30試合) |
D2 | 300校 (中~小) | 23 | 10名 | 11月 ~3月中旬 (25試合) |
D3 | 300校 (中~小) | 43 | 0名 | 11月 ~3月中旬 (25試合) |
現在、NCAAは3部のディビジョン制(DivisionⅠ、DivisionⅡ、DivisonⅢ)を敷いていて、それぞれのディビジョンに300~350校が所属している。
一般的にDivisionはDに略される。数字はローマ数字(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)では無く、算用数字(1、2、3)が使用される。例えば、「DivisonⅠをD1」と書いてDivisionⅠでプレーしている学生アスリートをD1プレーヤーと表記する。
ディビジョンは強さでは無く、大学の意向(運動部の予算)で決まる。NCAAは大学に各ディビジョンでプレーするための条件を課している。例えば、D1でプレーするためには各大学は男女合計14部以上を運営しなければならず、所属するディビジョンは複数ある条件のクリア状況に応じて決定するのだが、概してディビジョンが上がるにつれてより大きな予算が必要となるため、ディビジョンは実質的に大学の予算の大きさで決まる。故に、自然と規模の大きな大学はD1、中規模の大学はD2、小規模の大学はD3に所属する傾向にある。
加えて、ディビジョンが下位になるに連れてスポーツ奨学金を与える限度人数が少なくなり、スケジュールも短く、試合数も減少する。



スケジュール
レギュラーシーズン (ノンカンファレンス期) | レギュラーシーズン (カンファレンス期) | ポストシーズン | |
D1 | 11試合前後 (10~12月下) | 18試合前後 (1~3月中) | 2月下~4月上 |
D2 | 8試合前後 (11~12月中) | 18試合前後 (1~2月中) | 2月下~3月中 |
D3 | 5試合前後 (11~12月上) | 18試合前後 (1~2月中) | 2月下~3月中 |
スケジュールはディビジョンが下がるに連れて試合数と開催期間が小さくなっている。加えて、D2とD3の場合、冬休み期間(12月中旬~1月上旬)は試合を行わない場合も多い。と言うのも、冬休み期間中に大学の施設を開けるのにはコストがかかり、なお且つ冬休み期間中はクリスマスシーズンということもあり、ほとんどの学生達は実家に帰ってしまうため、盛り上がりにも欠けるからだ。また、NCAAトーナメントはD1は約3週間程かけて行われるが、D2とD3の場合は10日間程の間に全日程を済ませる。

カンファレンス
各ディビジョンには20以上のカンファレンスがある。カンファレンスとはリーグ戦を行う大学の連盟なのだが、全3ディビジョンに共通して、地理的に近く、なお且つ「同じような実力」の大学が同じカンファレンスに所属する傾向がある。
重要なのは同じような実力の大学が集まる点だ。つまり、強い大学は強い大学が多く所属するカンファレンスに、そうでもない大学はそうでもないカンファレンスに加わっている。故に、同じディビジョンでもカンファレンスごとに実力差があり、各ディビジョンには強いカンファレンス、そこそこのカンファレンス、弱いカンファレンスが存在していて、どこのカンファレンスに所属しているかも重要になる。
NCAA D1では強さを表す際に用いられるのがメジャー(major)という単語だ。強豪校はハイメジャー校、中堅校はミッドメジャー校、弱小校はローメジャー校と呼ばれ、ハイメジャー校が集まっているカンファレンスはハイメジャーカンファレンス、ミッドメジャー校同士のカンファレンスはミッドメジャーカンファレンス、ローメジャー校のカンファレンスはローメジャーカンファレンスと表現される。



NCAA以外の大学体育協会
NAIA: NCAAに次ぐ大学体育協会
名称: National Association of Intercollegiate Athletics
所属校数: 約250校
ディビジョン: 2部制
本部: ミズーリ州カンザスシティ
HP: http://www.naia.org/
NAIAは小規模校を中心とした大学体育協会だ。基本的な構造はNCAAとほとんど変わらない。毎年3月にはNAIAのNo.1を決めるNAIAトーナメントがミズーリ州カンザスシティで開催されている。
競技レベルは「NAIAディビジョンⅠ=NCAAディビジョンⅡ」と言われている。年に1度程度はNAIA校がNCAA D1校を倒すこともある。優秀な学生アスリートがNAIA校を選ぶ理由は主に費用面奨だ。一般的にアメリカの大学に通うのには莫大な費用がかかる。奨学金の補償が「NAIA校>NCAA校」の場合、NAIA校を選ぶプレーヤーもいる。
しかし、NAIAからNBAに行く選手は天然記念物級にレアだ。しかも、最近はめっきりいない。但し、ただでさえ稀有な存在にも関わらず、NAIA出身のNBA選手の中にはテリー・ポーター、スコッティ・ピッペン、デニス・ロッドマンと言った一流のスタープレーヤーがいる。
一方、今までに何人もの日本人プレーヤーがNAIAでプレーしている。おそれらく現役プレーヤーもいるはずだ。
実はNAIAはNCAAよりも古い。1937年、NAIBと呼ばれる全米初の大学No.1を決める大会がカンザスシティで開催されたのだが、NAIAはその大会組織委員会が源流となっている。ちなみに、バスケットボールの生みの親で当時カンザス大学HCを務めていたジェームス・ネイスミス博士も携わっていた。
NJCAA: 最大の短大体育協会
概要
名称: National Junior College Athletic Association
所属校: JUCO
所属校数: 約500校
ディビジョン: 3部制
本部: ノースカロライナ州シャーロット
HP: http://www.njcaa.org/landing/index
NJCAAはアメリカ国内の短期大学の運動部を統括している組織だ。NJCAAもNCAAやNAIAと同様に傘下の学校をディビジョンⅠ、ディビジョンⅡ、ディビジョンⅢに分類している。毎年3月にはNJCAAトーナメントも開催されている。
現状: カレッジコーチ達の狩場
短大では数多くのNCAA D1レベルの選手がプレーしている。
NCAA D1級の選手が集まる主な理由は「金銭面」と「学力」だ。まず、一般的に短大は4年制大学よりも授業料や諸費用がはるかに安い。故に、全額支給の奨学金を貰えなかった学生が自宅から通える(=寮費が掛からない)短大に通っている。次に、NCAAは学力テストのスコアや高校時の成績等の学力基準を設けている。NCAAの学力基準を満たせずに学力基準の緩い短大に通わざるを得ない選手が相当な数存在する。その他にも素行不良で退学になった選手やプレータイムを求めている選手もいる。
一方、カレッジコーチ達が高校生よりも短大生を評価しているのも事実だ。理由は短大生の方が高校生よりも信頼できるからだ。高校生は戦力になるまでに時間を要する上、学力不足や素行不良などで大学生活を送る力がない可能性があるが、20歳前後の成熟した短大生は即戦力になり得る。しかも、彼らは短大を学力や素行に問題無く過ごした実績がある。だから、高校生よりも短大生を好むコーチも多い。
その結果、短大はカレッジコーチ達の狩場と化している。実際、短大生のランキングや優秀な短大選手だけを集めたショーケースも存在する。毎年、100~200名がNCAA D1校へと編入し、逆に色々な事情で多くのD1生がJUCOへと編入してくる。
JUCO出身のNBAプレーヤー
- ジョン・スタークス
- スティーブ・フランシス
- ラリー・ジョンソン
- ショーン・マリオン
- ジミー・バトラー
先述した通り、選手達が短大でプレーしている理由はバスケの実力不足ではない。だから、短大出身のNBAプレーヤーは星の数ほど存在する。多くは短大からNCAA D1校を経てNBA入りする。その中にはNBAでオールスターに選ばれた選手も数多く存在している。現役選手の代表格はジミー・バトラーだ。バトラーは高校卒業時にD1校からオファーが無く、地元のタイラーカレッジに進学し、そこでのプレーが評価されて強豪マーケット大学へと編入した。
日本人短大プレーヤー
JUCOでプレーした日本人はぼちぼちいる。第二回スラムダンク奨学生の谷口大智選手や早川ジミー選手はケントプレップスクールを卒業後、アリゾナ・ウェスタン大学に編入した。現在は富永啓生がテキサス州のレンジャーカレッジに在籍している。
その他の大学体育協会
NCCAA: キリスト教系の大学が所属する大学体育協会
CCCAA: カリフォルニア州の短大が所属する大学体育協会
USCAA(United State Collegiate Athletic Association)
NCCAAはキリスト教系の大学が所属する大学体育協会だ。現在NCAA D1に所属しているガードナーウェブ大学は元々はNCCAAに所属していた。
CCCAAはカリフォルニア州の短大が所属する大学体育協会だ。田渡凌選手が通っていたオローニ短大や「ラスト・チャンス(バスケ編)」のイーストロサンゼルス短大が所属している。
USCAAは75校程度の大学が参加している大学体育協会だ。四年制大学、コミュニティカレッジ、ジュニアカレッジが混在している。
大学体育協会間の交流
大学体育協会の垣根を超えた試合
日本のプロレス団体とは異なり大学体育協会同士の仲は良好だ。NCAA校とNAIA校が試合をすることは普通に行われている。
大学体育協会の移籍
大学体育協会を移籍することも日常茶飯事だ。
複数の大学協会に所属
同時に複数の大学体育協会に所属していた例もある。例えば、2019年のNCAAトーナメント(D3)を制覇したネブラスカ・ウェズリアン大学は2015-16シーズンまではNCAA D3とNAIAの両方に加盟していた。また、ニューヨークステイト大学デルハイ校は2016~17年の約1年間だけNAIAとUSCAAの両方に所属していた。
合同のカンファレンス
NEIC
St.ジョセフカレッジ(USCAA)
メイン大学フォートケント校(USCAA)
ニューヨークステイト大学デルハイ校(NAIA&USCAA)
ビラマリアカレッジ(USCAA)
フィッシャーカレッジ(NAIA)
別々の大学体育協会の大学が一緒になって組織しているカンファレンスも存在している。2016年に設立されたノースイースタン・インターカレジエイト・カンファレンス(NEIC)にはUSCAA3校、NAIA1校、先述したUSCAAとNAIAの両方に所属していたニューヨークステイト大学デルハイ校が参加していた。その後、ニューヨークステイト大学デルハイ校、St.ジョセフカレッジ、ビラマリアカレッジが離脱したが、フィッシャーカレッジとメイン大学フォートケント校が残っているので、現在でも辛うじて二大学体育協会合同の状態は保たれている。
まとめ
カレッジバスケ全体
→NCAA
→→D1
→→→ハイメジャー
→→→ミッドメジャー/ローメジャー
→→D2
→→D3
→NAIA
→NJCAA
→その他
重要なのは「カレッジバスケ=NCAA」だけではないことだ。一般的にカレッジバスケとして語られているのはNCAA、しかもディビジョンⅠのハイメジャーだけだが、カレッジバスケの話題ではNAIAやJUCOといったワードは当たり前のように出てくるため、NCAA D1以外の大学体育協会が”存在するということだけ”は知っている必要がある。
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参考
Fast Facts: Educational institutions(nces.edu.org)
Fast Facts: Back to school statistics(nces.edu.org)
Men’s Basketball(reed.edu)
NCAA MEMBER SCHOOLS(ncaa.org)
第2回奨学生の近況報告(slumdunk-sc.shueisha.co.jp)
海外でプレーする日本人バスケットボールプレイヤー(namioka4967.web.fc2.com)
NWU gives up NAIA status, will join IIAC(d3sports.com)
Unique Dual-Association Athletics Conference Established(naia.org)