うい。現地観戦研究家のBall Otaku Bros(@b_o_bros)だ。
最初に断っておくが、本来、このブログはバスケオタクが低予算で現地観戦を達成するためのガイドブックである。
ただ、カレッジバスケは何の予備知識も無しには楽しめないし、NBAと比べてプレーの質が遥かに劣る試合を観に行く気にはなれないと思う。
と言うことで、この度、「NCAA基礎講座」と題してアメリカのカレッジバスケについて解説&紹介することにした。
これらの記事で基礎知識を身に着けて、自分の好奇心の赴くままに歴史、コーチのスタイル、戦術、各大学のカルチャーetcをディグり、最終的に現地を訪れてもらえれば幸いだ。

今回はNCAAディビジョンⅡ(以下D2)について取り扱う。
大学体育協会(おさらい)
主な大学体育協会
NCAA: 全米最大の大学体育協会
NAIA: 小規模校が所属
NJCAA: 短大が所属
NCCAA: キリスト教系の大学が所属
アメリカには大学体育協会が複数存在する。大学体育協会とは大学スポーツを管理する組織だ。一般的に「アメリカのカレッジスポーツ=NCAA」だと思われがちだが、実はNCAAは数ある大学体育協会中の1つに過ぎない。

ディビジョン
基本情報: 三部制
現在、NCAAは三部(DivisionⅠ、DivisionⅡ、DivisonⅢ)制を敷いていて、各ディビジョンには300~350校が所属している。一般的にDivisionはDに略される。数字はローマ数字(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)では無く、算用数字(1、2、3)が使用される。例えば、「DivisonⅠをD1」と書いてDivisionⅠでプレーしている学生アスリートをD1プレーヤーと表記する。
ディビジョンの決定
ディビジョンは大学の意向(運動部の予算)で決まる。強さは関係無い。NCAAは大学に各ディビジョンでプレーするための条件を課しているのだが、例えば、D1でプレーするためには各大学は男女合計14部以上を運営しなければならない等、概してディビジョンが上がるにつれてより大きな予算が必要となる。現にシカゴステイト大学は毎年5勝25敗程度の成績だが、NCAAの条件をクリアしているためD1に居続けている。ちなみに、近年ではD1への昇格が毎年0~5校程度、降格が数年に1、2校程度となっているので、NCAA D1の総数は微増している。
ディビジョンの歴史
ディビジョン制は1956年に始まった。当初、所属は大学の規模で2つのディビジョンに分類された。最初の名称は総合大学を表すユニバーシティーを用いたユニバーシティーディビジョン(現在のD1)と単科大学を意味するカレッジを用いたカレッジディビジョン(現在のD2)であったが、大学の規模と運動部の予算は必ずしも比例しないため、その後、現在のD1とD2に改称された。D3は1973年にD2の予算すら厳しい所属校を集めて組織された。
ディビジョンの比較
各ディビジョンの所属校の傾向
ディビジョン | 所属校 | カンファレンス | 大学規模 |
DivisionⅠ | 約350校 | 32 | 大~小 |
DivisionⅡ | 約300校 | 23 | 中~小 |
DivisionⅢ | 約300校 | 43 | 小 |
先述した通り、上位ディビジョンでプレーするためにはより大きな予算が必要となる。故に、自然と規模の大きな大学はD1、中規模の大学はD2、小規模の大学はD3に所属する傾向にある。
選手
ディビジョン | 選手数 | 高校バスケ部員 に対する割合 |
DivisionⅠ | 約5500名 | 約1.0% |
DivisionⅡ | 約5500名 | 約1.0% |
DivisionⅢ | 約7500名 | 約1.4% |
NCAA D1~3プレーヤーはかなり少ない。全ディビジョンを合わせた選手数はアメリカの高校のバスケ部員の約3.5%程だ。
ルール
- 各チームのスポーツ奨学生数
- エリジビリティ(プレー資格)
- リクルート
各ディビジョン間ではルールが異なる。最も代表的なのはスポーツ奨学金(Athletic Scholarship)枠数だ。NCAA D1校は最大13名までスポーツ奨学金を与えることができるが、NCAA D2校は10名、NCAA D3は0名までと決まっている。エリジビリティ(プレー資格)に関するルールは上位ディビジョンの方が厳しい。

スケジュール
ディビジョン | ノンカンファレンス期 | カンファレンス期 | ポストシーズン |
DivisionⅠ | 11試合前後 (10~12月下) | 18試合前後 (1~3月中) | 2月下~4月上 |
DivisionⅡ | 8試合前後 (11~12月中) | 18試合前後 (1~2月中) | 2月下~3月中 |
DivisionⅢ | 5試合前後 (11~12月上) | 18試合前後 (1~2月中) | 2月下~3月中 |
スケジュールはディビジョンが下がるに連れて試合数と開催期間が小さくなっている。加えて、D2とD3の場合、冬休み期間(12月中旬~1月上旬)は試合を行わない場合も多い。と言うのも、冬休み期間中に大学の施設を開けるのにはコストがかかり、なお且つ冬休み期間中はクリスマスシーズンということもあり、ほとんどの学生達は実家に帰ってしまうため、盛り上がりにも欠けるからだ。

NCAAトーナメント
ディビジョン | 出場枠 | 開催期間 |
DivisionⅠ | 68校 | 3月中~4月上 |
DivisionⅡ | 64校 | 3月上~中 |
DivisionⅢ | 64校 | 3月上~中 |
NCAAトーナメントは各ディビジョンごとに開催されている。つまり、D1のNCAAトーナメント、D2のNCAAトーナメント、D3のNCAAトーナメントがある。各ディビジョン共に出場校数はほとんど同じで全6ラウンド制なのも共通しているが、D1の場合は2ラウンドごとに会場を移す一方、D2とD3の場合は3ラウンドごとに会場を移して行われ、それに伴い、開催期間も前者は3週間以上、後者は2週間程と差がある。

ディビジョンⅡ(D2)
基本情報
所属校: 約300校
カンファレンス: 23
シーズン: 11月~3月
HP: http://www.ncaa.org/about?division=d2
D2はD1の規模が小さくなった版だ。
先述した通り、どこのディビジョンに所属するかは大学の予算の大きさで決まるので、D2にはD1校程運動部に予算を投じることができない中小規模の大学が所属している。例えば、男子バスケ部のスポーツ奨学生もD1は1チームに13人までと上限が設けられているなのだが、D2は10人までとなっていて、さらに言えば、シーズンも若干短く、試合数も少ない。
しかし、D2校が必ずしもD1校よりも弱いワケでは無い。繰り返しになるがディビジョンは予算で決まる。D1に所属するためには全14部を運営しなければならない。故に、実力はD1レベルに強くても予算が少ないためにD2に所属しているチームもある。
NCAAではディビジョンの垣根を超えた試合(DⅠ校 vs DⅡ校やDⅠ校 vs DⅢ校)がノンカンファレンスシーズンに組まれるのだが、 D2大学がD1大学に勝ってしまうことは往々にして起こっているし、最近ではカリフォルニア・バプティスト大学やグランドキャニオン大学はD1昇格初年度から勝ち越しでシーズンを終えている。また、D2の超強豪ノースウェスト・ミズーリ・ステイト大学は2019-20のプレシーズンゲームでデューク大学と6点差の試合をしている。
特徴1: 近隣諸国の大学も所属
D2校にはアラスカ州、カナダ(バンクーバー)、メキシコ、プエルトリコの大学も所属している。D1にはアメリカのアラスカ州以外の49州の大学しか所属していない。
特徴2: インディペンデント校
The updated #NCAAD2 fact sheet provides interesting summary data about NCAA Division II schools and their student-athletes https://t.co/WMJTZdKUsS. #MakeItYours pic.twitter.com/d4LdNw8hO9
— NCAA Research (@NCAAResearch) February 28, 2020
NCAA D2にはどこのカンファレンスにも所属していないインディペンデント校がある。現在はNCAA D1のバスケ部においてはカンファレンスへの加入を義務付けているため存在しない。但し、NCAA D1でもフットボールにはインディペンデント校が存在する。
D2からNBAへ
D2からNBAは難しい
- アール・ジョーンズ
ジョーンズは1984年に1巡目23位でロサンゼルス・レイカーズに指名された選手だ。元々UCLA等の強豪からオファーもあったが、バスケットボールに対する意欲が低かったためUniversity of the District ColumbiaというワシントンD.C.の大学へ進学した。 - AJ・イングリッシュ
イングリッシュはバージニア・ユニオン大学でプレーした後、1990年2巡目37位でワシントン・ブレッツに指名され、2シーズンをNBAで過ごした。 - ベン・ウォーレス
ベン・ウォーレスもバージニア・ユニオン大学でプレーした後にドラフト外からNBAに入った。 - ロナルド・マレー
マレーは2002年に2巡目42位でミルウォーキー・バックスに指名されたガードだ。Shaw大学に通っていた。NBAでは通算レギュラーシーズン約500試合とプレーオフ約50試合に出場してそこそこの成功を収めた。 - ロバート・ワイリー
ワイリーは2005年NBAドラフトでユタ・ジャズに2巡目51位で指名されたビッグマンだ。が、ワイリーはウォルシュ大学以前にD1の強豪シンシナティ大学でプレーしていたため”純血”のD2プレーヤーでは無かった。 - ギャレット・サイラー
サイラーはオーガスタステイト大学(現オーガスタ大学)時代に4年間通算で75%近いFG%をたたき出し、2010-11にフェニックス・サンズと契約して24試合に出場した。
D2からNBAに辿り着いた選手は稀にいるが、NBAに留まれる選手はほとんどいない。現役ではデリック・ホワイト(サンアントニオ・スパーズ)も元D2プレーヤーである。ホワイトは3年間D2のコロラド大学コロラドスプリングス校でプレーした経験を持っている…のだが、その後、彼はD1の強豪コロラド大学に転校しているため純血のD2プレーヤーでは無い。
近年、D2 to NBAが増加中!?
ヘイウッド・ハイスミス
しかし、近年、D2校を卒業後にNBAプレーヤーになる成り上がりブームが起こり始めている。ヘイウッド・ハイスミスはウィーリング・ジーザス大学(Wheeling Jesuit University)で4年間(2014-18)プレーしたウィングだ。2018年、ヘイウッドはシクサーズの一員としてサマーリーグに参加した後、シクサーズ傘下のGリーグチームのブルーコーツに加入し、2019年1月に2ウェイ契約を結んで同月8日のワシントン・ウィザーズ戦でNBAデビューを果たした。成績は合計5試合で1.8P/1.0Rだった。
ジョーダン・ロイド
Jordan Loyd’s parade t-shirt did not get the attention it deserved. pic.twitter.com/oz2BT7mjsl
— Yoni (@OriginalYoni) June 18, 2019
2018-19、ジョーダン・ロイドもD2校からNBAにたどり着いた。ロイドは2011-12だけはNCAA D1のファーマン大学でプレーしていたが、2013-16はNCAA D2のインディアナポリス大学でプレーし、フォートウェイン・マッドアンツやサマーリーグを経て2018年10月29日にNBAデビューを果たした。
アミーア・ヒントン
アミーア・ヒントン(Amir Hinton)は先述したロナルド・マレーと同じシャウ大学出身のスコアリングガードだ。ヒントンは高校生の時にペンシルベニア州の最優秀選手賞を受賞した程の選手だったが、高校卒業後はD1スクールでは無く、D2のロック・ヘイブンズ大学(Lock Haven University)に進学し、LHUで2年間(2016-18)プレーした後、現在のシャウ大学に転校した。
そして、2018-19、ヒントンは平均29.4点を記録してNCAA D2の得点王にも輝き、一部では1巡目指名候補の噂が出るまでに至ったため、最終学年をスキップしてNBAドラフトにアーリーエントリーした。残念ながらヒントンの名前が呼ばれることは無かったが、ドラフト直後にニューヨーク・ニックスとエクシビット10契約に合意、2019-20はニックスの下部組織ウェストチェスター・ニックスでプレーした。
ダウルトン・ホームズ
そして、もう1人がサンアントニオ・スパーズと契約したダウルトン・ホームズ(Daulton Hommes)だ。ホームズは実力こそD1レベルだったが怪我で満足にアピールができなかったため、2017-18は地元ワシントン州のD2校ウェスタンワシントン大学でプレー、その後D2の強豪PLNU(Point Loma Nazarene University) に編入、2018-19に平均22得点の活躍でチームをD2のNCAAトーナメント準優勝に導いた。2019年、ホームズもヒントンと同様にドラフト外となったが、その後、サンアントニオ・スパーズと契約、2019-20は傘下のオースティン・スパーズでプレーした。
ぶろどりっく・トーマス
ブロドリック・トーマスは異色のD2 to NBA選手だ。トーマスは2015-16にNCAA D2トルーマンステイト大学に入学したのだが、怪我で全休を余儀なくされた後、翌2016-17は学業成績不振でプレー資格が停止になったため、学業成績の基準が緩い短大に転校することになった。そして、翌2016-17にトーマスはトルーマンステイト大学に復学し、2019-20までプレーした。その後、トーマスは2020-21にヒューストン・ロケッツで4試合に出場し、2020-21にはクリーブランド・キャバリアーズと契約した。
D2の日本人
- 田臥勇太選手(BYU at Hawaii/1999-2002)
- 谷口大智選手(SEOSU/2012-15)
- 田渡遼選手(Dominican Univ of Cal/2015-17)
- 内田雅樂(DUoC/2017-18)
- 榎本新作選手(ENMU/2018~20)
- 角野亮伍選手(SNHU/2016~20)
田臥勇太選手(BYU at Hawaii/1999-2002)
レジェンド田臥勇太選手も元D2プレーヤーだ。田臥選手は能代工業高校を卒業後にブリガムヤング大学ハワイ校(BYU at Hawaii)に入学した。
ブリガムヤング大学ハワイ校はユタ州に本キャンパスを構えるブリガムヤング大学の分校だ。アメリカでは同じ大学システムでもキャンパス毎に違う大学として固有の部活を運営しているのだが、本家BYUはNCAA D1に所属している実力校、ハワイ校はD2に所属していた。
しかし、学業不振等で思うようなプレータイムが与えられず、卒業を待たずして田臥選手は日本に帰国した。ちなみに、その後、田臥選手は日本人として初めてNBAのコートに立つことになる訳だが、実はD2からNBAに辿り着いたという意味でもある種の偉業を達成しているのだ。
田渡遼選手(Dominican Univ of Cal/2015-17)
近年では田渡遼選手がプレーしていた。

榎本新作選手(ENMU/2018-20)
アイザイア・マーフィーこと榎本新作選手もD2でプレーしていた。榎本選手はピマ・コミュニティーカレッジでプレーした後、2018年にイースタンニューメキシコステイト大学(ENMU)にトランスファー(編入)して、2018-19、スターティングメンバーとして27試合に出場して平均7.9P/3pt 38.4%の成績(スタッツ)を残している。
角野亮伍選手(SNHU/2016-20)
角野亮伍選手もD2でプレーしていた。角野選手は藤枝明誠高校を卒業後、アメリカのSt. トーマスモア高校に編入して、16-17シーズンからサザンニューハンプシャー大学でプレーしているプレーヤーだ。3年目となった18-19シーズンは25試合に出場し、平均3.3得点(スタッツ)を記録している。
まとめ
- D2はD1の小規模版
- D1校がD2校よりも強いとは限らない
- D2からNBAへ行く選手は少ないがゼロでは無い
- 日本人D2経験者は多い
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参考
Get to know Sixers rookie Haywood Highsmith (nbcsports.com)
‘Random’ Raptors player in viral Kawhi Leonard buzzer-beater photo had the best parade shirt(ftw.usatoday.com)
New York Knicks stay active after draft, signing trio of players(dailyknicks.com)
(ESPN)
Garret Siler(basketball-reference.com)
Thomas Returns to Bulldogs as Champion(tmn.truman.edu)
「未来のスターを探せ! BBKスカウティングレポート No.012 角野亮伍(サザンニューハンプシャー大学1年)」(バスケットボールキング)