【徹底解説】AAUバスケットボール

概要

AAUバスケットボールは小中高生+ポスト-グラデュエート生のクラブチームバスケットボールの大会やキャンプの通称だ。

基礎知識

AAU: ユーススポーツの非営利組織

AAU(Amature Athletic Union)はユーススポーツの大会を運営している非営利組織だ。AAUはかつてはアマチュアスポーツ全般のリーダーシップを執っていた。その後、五輪のプロ解禁を境に影響力を失い、ほとんどユーススポーツに特化した団体となってしまった。

呼称: グラスルーツバスケットボール

実はアメリカのクラブチームバスケットボールの呼称は「AAU」「グラスルーツ」「サーキット」「トラベリング」と何種類もある。特に最近は「グラスルーツバスケットボール」が用いられることが多い。理由は最近はAAUがイベントの協賛に入っていない場合もあるからだ。 一方、AAUクラブは夏中に全米中を駆け回ることや1学年毎の周回から「サーキット」や「トラベリング」とも呼ばれる。

意義

AAUバスケットボールは大学のスポーツ奨学金を獲得するためのアピールの場になっている。AAUバスケットボールの繁栄は元々はカレッジコーチ達が良い選手だけをスカウトしたいという需要から始まった。だから、AAUのバスケットボール界隈は「選手にとってはアピール」「コーチにとってはスカウト」の場として機能している。

AAUクラブ

概要

AAUクラブはAAU主催の大会やキャンプに参加するクラブチームのことだ。現在カレッジコーチ達は高校よりもAAU大会でのパフォーマンスを重要視しているため、大学でのプレーを目指す高校生達はAAUクラブにも所属するのが当たり前になっている。

レベル

クラブは全米中に無数にある。レベルもピンキリだ。主に「NCAA D1の強豪大学」「NCAA D1校の奨学金獲得」「どこかしらの大学の奨学金獲得&バスケ上達」の3つの段階に分けられる。但し、入団は基本的にはトライアウトに合格するかスカウトされなければ入団できない。地元の全クラブに入れないケースもザラにある。

学年毎のチーム編成

各クラブは学年ごとのチームを持っている。最小でもU17、U16、U15のチームがある。大きいチームではU10のチームもある。理由はAAUが評価の場だからだ。各大会もコーチ達が選手を評価しやすいようにチームは学年できっちり分けられている。

活動内容

活動の中心は選手のアピールだ。ほとんど練習がないチームもある。彼らはひたすら大会やキャンプに参加するだけだ。だから、逆に強豪クラブは練習しないことを開き直って遠方の選手も加入させている。選手達は大会当日に顔を合わせることもザラだ。その点でAAUは全米各地の選抜の試合に近い。

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そして、最も重要なのが強豪クラブとスポーツメーカーとの癒着だ。ナイキ、アディダス、アンダーアーマーの三社は各地の強豪クラブに資金提供を行っている。各クラブはその資金で地元の優秀な選手を集め、その後、選手達を資金提供を受けたメーカーがスポンサードしている大学に進学させ、もしその選手がNBAに行った際はそのメーカーと契約を結ばせる。

AAUシーズン: 狂気的な日程

AAUのシーズンは主に4~7月だ。各クラブは全米各所で行われる大会をハシゴする形で矢継ぎ早に参加する。典型的な大会の日程は3~4日間に10試合以上だ。一方、選手達はNBA選手や有名コーチが主催しているクリニックやキャンプにも参加する。その結果、夏休み中、高校生達はプロ選手のように試合や練習会にのために全米中を飛び回ることになる。

大会

三大サーキット

最もハイレベルなのがナイキ、アディダス、アンダーアーマーの三社が各々主催するサーキットだ。上記の三大サーキットは、全米数か所で予選ラウンドを行った後、AAU大会を積極的に誘致している南部のジョージア州、アラバマ州、サウスカロライナ州で決勝ラウンドが行われる。カレッジコーチ達は選手を評価する際にこの三大サーキットでの戦いぶりを最重要視している。理由はシンプルに激しい競争があるからだ。だから、高校生達もAAUクラブのコーチ達もここでの戦いに全力を注ぐ。

インディペンデント(独立)

一方、実はほとんどの大会はシューブランドのスポンサードを受けていない”インディペンデント”で行われている。インディペンデントの大会はクラブチーム、教会、地域団体が地元企業から資金を募って開催されることが多い。その中には実業家やイベント会社が興行主の胡散臭さが感じられる大会も存在する。

NCAAのお墨付き
NCAA Certified Basketball Events

そして、NCAAは上記の様な大会に「公認大会(NCAA Certified Event)」のお墨を発行している。NCAA D1のコーチ達は公認大会にしか出席することができない。

キャンプ

主要キャンプ
  • エリートキャンプ(招待制)
    Five-Star Basketball Camp: 1966年開始の老舗
  • その他
    NBA、大学、コーチ等

また、育成年代選手達はバスケットボールのキャンプに参加して腕を磨く。

コロナ禍のグラスルーツバスケットボール事情

概要
  • 2020年
    三大サーキット中止
    極一部の大会のみ強硬開催
  • 2021年
    三大サーキット再開(無観客)

グラスルーツバスケットボールは新型コロナウィルスの影響をもろに受けた。2020年、一部の大会以外は全てが中止となった。そのため、選手とコーチは「アピール/評価」の場を失った。その後、2021年、多くの大会が再開した。

AAUバスケットボールの歴史

1980年代後半、ユースバスケットボールの中心が高校やサマーリーグからAAUサーキットへと移り変わり始めた。理由はナイキが新たなバスケットボール市場を開拓するためにAAUに目を付けたからである。


ジョーダン以前、ナイキはNBAよりもカレッジシーンに近しかった。多くのNBA選手がアディダスやコンバースを履いている中、ナイキは各大学にシューズやアパレルを無償提供し、しかも、当時はこれが斬新だったのだが、自社製品を着用する見返りを大学やコーチに支払っていたのだ。


ナイキはカレッジコーチ達が全米各地の有望な選手を一度に評価できる場を欲していることを知った。当時、カレッジコーチ達のリクルートは地元選手中心にならざるをえなかった。コーチ達は高校やサマーリーグの試合に足を運ぶか、あるいは各地でキャンプを主催するしかリクルートの方法が無かったのだが、いずれも集まっているのは地元の選手達だけだったからだ。


そんな中、全米各地の有望選手が集まる唯一の機会だった高校オールスターゲームが盛況を見せていた。1965年に始まった元祖高校オールスターゲームのラウンドボール・クラシックは規模が大きくなっており、1978年にはマクドナルド・オール-アメリカンも開催され、僅か1試合のために全米中の強豪校のコーチ達がスカウティングのために一堂に会していた。


一方、翌1985年、エアジョーダン1が絶大な人気を博した。1984年、ナイキは全米各地から有望な選手を集めてカレッジコーチ達にスカウティングの場を提供するABCDキャンプを開催したのだが、AJ1の発売以降、ナイキは子ども達の心を掴み、ナイキのキャンプは彼らの憧れの的となった。ナイキはユースバスケットボールに市場の存在を確信した。


そして、ナイキが目を付けたのがAAUバスケットボールだった。1990年代、ナイキは全米各地のAAUクラブと大会運営者に運営資金の提供を行った。その結果、各地にその地方の有望選手を囲い込んだパワーハウスクラブが誕生し、それまでAAUと地元有志で細々と開催されていた大会やキャンプはそういった全米各地の強豪クラブを集めて、一気にナイキ主催のハイレベルな大会が開催されるようになった。


その後、アディダスがナイキを模倣した。アディダスはナイキから解雇されたサニー・バッカーロ(Sonny Vaccaro)を雇った。バッカーロはユースバスケットボール市場を開拓した張本人である。彼はラウンドボール・クラシックとABCDキャンプの発案者でナイキにジョーダンとの契約を猛プッシュした天才だ。その結果、ラウンドボール・クラシックとABCDキャンプはアディダスに移った。


それだけではない。バッカーロはアディダスでも先見性を発揮した。バッカーロが次のキッズの憧れの対象になる選手として高校卒業直後のコービー・ブライアントとトレイシー・マグレディと契約したのだ。


そして、アディダスもナイキと同様に全国各地のAAUクラブと大会運営へ資金提供を始めた。ユースバスケットボールもナイキとアディダスの戦地となった。


アンダーアーマーも両者を追った。その結果、三社主催のトーナメントやキャンプが全米各地で開催されるようになったのだが、各クラブはサポートを受けているメーカーのイベントにしか出場できないため、各クラブは夏休み中に全米各地を飛び回って各々のメーカー主催のイベントに出る状況になっている。これがAAUがサーキットやトラベリングと呼ばれる由縁だ。


無論、三社が関わっていない大会やキャンプも存在するが、NCAA D1レベルの選手が参加する大会は全て三社のいずれかがスポンサーになっている。

三大サーキット

NIKE EYBL

基本情報

名称: NIKE Elite Youth Basketball League(EYBL)
時期: 4~7月
予選ラウンド(4月)
決勝ラウンド(7月)
入場料: $60
HP: nikeeyb.com

EYBLはナイキのAAUサーキットだ。EYBLは三大サーキットの中で最もレベルが高いとされている。決勝ラウンドのピーチジャムには最短2年後にはNBA契約を結ぶ選手達が何人も参加している。同大会は1997年にナイキがピーチ・バスケット・クラシックのスポンサードを開始してナイキ・ピーチ・ジャムとなった。

ADIDAS

3SSB(3 Stripe Select basketball): 最上位サーキット

2021年以降、アディダスは本格的に3SSB(3 Stripe Select Basketball)をプレミアサーキットとして売り出している。レベルはEYBLに次ぐ2番手だ。

Adidas Gauntlet
基本情報

名称: Adidas Gauntlet
時期: 4~7月
予選ラウンド(4月)
・ゴールド: 約50チーム(招待のみ)
・シルバー: 約50チーム
決勝ラウンド(7月)
・ゴールド&シルバー: 約80チーム
入場料: $15
HP: https://adidasgauntlet.com/

ガントレットシリーズは2017年頃に始まったサーキットだ。ガントレットシリーズはゴールドとシルバーの2つのクラスが存在する。現在はガントレットシリーズは3SSBの下に位置付けられている。

Adidas Uprising: ガントレットシリーズ以前のブランド

アップライジングシリーズはガントレット以前のサーキットだ。アディダスはライジングシリーズを2016年頃まで使用していた。

UNDER ARMOUR

UAA(Under Armour Association)
基本情報

名称: Under Armour Association
時期: 4&7月
予選ラウンド(4月)
決勝ラウンド(7月)
入場料: $15
HP: https://underarmournext.com/

アンダーアーマーアソシエーション(UAA)はアンダーアーマーのプレミアムサーキットだ。UAAはU17とU16チームの「12試合のリーグ戦」+「決勝トーナメント」を開催している。レベルはナイキとアディダスに次ぐ3番目とされている。

UA Rise

UAライズはアンダーアーマーの2番目のサーキットだ。UAライズはU17、U16、U15の3カテゴリーで48チームでのリーグ戦+決勝トーナメントを行っている。

ステフィン・カリーのキャンプ

毎夏、アンダーアーマーは有望選手を招待してステフィン・カリーから直接指導を受けられるキャンプを実施している。最終日の紅白戦(実質的なオールスターゲーム)も恒例だ。また、2019年にはスリースター以下に過小評価されている選手達を集めたアンダーレイテッドツアーも始めている。

UA ELITE 24

UA ELITE 24は特設コート@ニューヨークで行われるオールスターゲームだ。同大会は2022年に2017年以来の復活を遂げた。

AAUサーキットへの批判

批判は多い

問題点1: ブラック過ぎるスケジュール

最も多い批判は諸悪の根源であるAAUサーキットのブラック過ぎる環境だ。AAUサーキットでは1日に4試合は当たり前だ。しかも、大会は全米各地で4~7月の約4ヶ月間に毎週のようにある。故に、子ども達の夏休みは試合と会場への移動で埋め尽くされる。


そして、このタフなスケジュールがもたらすのが子ども達の怪我だ。子ども達の中には14歳でアキレス腱の断裂を経験する者もいる。正常な子どもがスポーツでアキレス腱を断裂することは通常では有り得ないことらしい。さらには関節の状態が20代後半と同程度に消耗されている中高生もいる。実際、ワシントン・ウィザーズGMのトミー・シェパードはAAUサーキットの被害を被っていない八村塁の健康状態を評価している。


加えて、AAUサーキットに参加したことで選手達は普通の学生生活を諦めざるを得ないことも批判の対象だ。実際、NBAにたどり着いた選手の中にもその点を後悔している選手もいる。

問題点2: バスケットボールを学ぶ場ではない

子ども達がバスケットボールを学ぶ場として機能していないという批判もある。


主な原因の1つはAAUに参加するのはアピールのためだからだ。強豪クラブの中にはほとんど練習がないチームもある。だから、選手は試合中に勝利に繋がるプレーではなくアピールに繋がるプレーをしがちだし、そもそも即席チームでは組織の一員として与えられた役割をこなす動きを学ぶことはできない。その結果、選手達はいびつなバスケットボールをプレーすることになっている。


一方、AAUクラブ(特に強豪)は金儲けのために運営されている。AAUクラブのコーチ達は良い選手の加入させたらシューズメーカーから見返りを受け取る。見返りは数十万ドル(日本円で数千万円)に及ぶ場合もある。シューズメーカーはAAUクラブが獲得した選手を自社がスポンサードしている大学に送り込み、あわよくばNBA入り後のシューズ契約も結び、その選手の効果で商品が売れることで利益を回収している。大会やキャンプの開催も全ては利益のためだ。


そして、それ故にAAUコーチ達は指導力を問われない。AAUコーチに求められるのは「資金調達」と「選手の収集」だ。言い換えるならば、AAUコーチはビジネスマンである。実際、彼らの中にはコーチングやバスケットボールのバックグラウンドを持ち合わせていない者もいる。


コービー・ブライアントは「AAUに携わってる奴らはAAUをドル箱にしか思っていない」と痛烈に批判している。実際、ブライアントは選手時代から夏に自身でクリニックを開催するなどして子ども達にバスケットボールを教え、AAU文化を変えようとしていた。マンバ・アカデミーもコービーの意思の表れだった。

問題3: 搾取と犯罪

AAUが子どもを利用した搾取と犯罪の温床になっているのも問題視されている。


先述した通り、AAUクラブのコーチ達は選手を大学に入学させる見返りをスポーツブランドから受け取っているわけだが、同時にスポーツ代理業者(ファイナンシャルプランナーやマネジメント会社を含む)とも結託して選手に彼らのサービスを受けさせるように斡旋している。各大学のブースターと呼ばれるパトロンが加わることもある。これらは収賄罪と詐欺罪に該当する犯罪だ。実際、2017年にアディダスの元エグゼクティブとカレッジコーチとスポーツ代理業者が一斉にFBIによって逮捕されている。


さらには、AAUクラブのコーチ達は選手達にシューズ、アパレル、スマートフォン、ヘッドホン、食事、時には車などを与えて、チームに勧誘している。選手と家族をチームの拠点の近くに引っ越させる場合もある。これらは収賄罪になる場合もある。直近ではジェームス・ワイズマンが高校時代にペニー・ハーダウェイから引っ越しの資金を提供されていたことが発覚してNCAAから選手資格をはく奪された。

まとめ

結論、AAUはAAUと呼ばれてはいるものの、実情はスポーツブランドが主導権を握っている。個人的にAAUサーキットはコーチやコーチ志望者ならば特に一度は訪れる”べき”だと思う。良くも悪くも学ぶことや考えさせられることが多い。

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夏開催

イベント時期(例年)場所
NBAサマーリーグ7月上旬ラスベガス
サクラメント
ソルトレイクシティ
アメリカ代表7月下旬以降ラスベガス
+他の都市
BIG36~8月全米各地
TBT(The Basketball Tournament)6~7月全米各地
プロアマリーグ6~8月全米各地
AAUサーキット4&7月全米各地(特に南部)
その他(セレブリティゲーム/ツアー)通年全米各地

現地観戦の基礎知識

参考

About the Amateur Athletic Union(aausports.org)
UNDERSTANDING AAU BASKETBALL(proskillbasketball.com)
Sole Man(espnplayer.com)
How AAU Is Dominating High School Basketball(complex.com)
History, growth of the Peach Jam(postandcourier.com)
3SSB and Gauntlet Series(premierbasketballreport.com)
3 STRIPE SELECT BASKETBALL(teamlillardbasketball.com)
ADIDAS GAUNTLET(basketball.exposureevent.com)
Zion Williamson Scores 28, Defeats Big Baller Brand Despite LaMelo Ball’s 31(bleacherreport.com)
The Nation’s Top High School Players Unleash Chaos at 2019 UA Association Finals
2019 UA Association Boys Teams, Schedule and Formation of New UA Rise and UA Future Leagues Announced(about.underarmour.com)
Under the knife: Exposing America’s youth basketball crisis(espn.com)
Kobe: Europe’s players more skillful(espn.com)
Rui Hachimura’s unique NBA journey and the problem with AAU(sports.yahoo.com)
Play Their Hearts Out: A Coach, His Star Recruit, and the Youth Basketball Machine(George Dohrmann/2010)

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