概要
- 富永啓生選手
- NJCAA
- レンジャーカレッジ時代
- 今後
ネブラスカ大学: 強豪カンファレンス内の弱小校
コロナ救済措置: 3シーズンプレー可
富永啓生選手は2021年にNCAA D1のネブラスカ大学に編入したハイスコアラリングガードだ。
富永啓生選手は2019-20と2020-21の直近の2シーズンはNJCAAのレンジャーカレッジでプレーしていた。NJCAAはアメリカ国内の短期大学の運動部を統括している大学体育協会である。一般的に「アメリカの大学スポーツ=NCAA」と認識されているが、アメリカの短大はNCAA D1級の選手が学業不振や素行不良や経済的な理由でゴロゴロいるため、レベルが低い訳では決してない。むしろNBA選手の中にも短大経験者は星の数ほど存在する位にハイレベルである。そんな中、富永啓生選手は1年次から才能を遺憾なく発揮し、2020-21にはコーチの交代やコロナの影響でストレスを抱えつつも、チームをNJCAAトーナメントのファイナル4進出に導き、自身はNJCAAのオール・アメリカ・チームに選出された。
そして、 ネブラスカ大学は正にこれからのチームだ。同校はNCAA D1全体(約350校)で上の下に相当するものの、超強いカンファレンスに所属しているためにこれまではなかなか勝つことができないでいるのだが、2019年に元シカゴ・ブルズHCのフレッド・ホイバーグを採用してバスケ部強化に本腰を入れ始めた。つまり、富永選手はネブラスカ大学の伝説の始まりのメンバーとして見込まれた。
さらに、富永選手はネブラスカ大学で最大で3年間プレーできるようになった。NCAAでは原則的にはあらゆるカレッジキャリアを合計して4シーズン以内の選手しかプレーできず、富永選手は既に2019-20と2020-21の合計2シーズンをプレーしているのだが、2020年、NJCAAは2020-21の全選手のプレーシーズンをカウントしないことを発表し、NCAAもNJCAAの判断を追認したため、富永選手は登録上は2019-20シーズンだけしかプレーしていないことになり、本人が望む限りではNCAAで3シーズンプレーすることが可能となったのだ。
NJCAA
基本情報
NJCAAはアメリカ国内の短期大学の運動部を統括している大学体育協会だ。一般的に「アメリカの大学スポーツ=NCAA」と認識されているが、NCAAはアメリカの複数存在する大学体育協会の1つに過ぎず、NCAAよりも歴史が古いNAIA、全米の短大が所属するNJCAA、キリスト教系大学のNCCAA等、NCAA以外にも大学体育協会はいくつも存在し、各大学は自分達の判断でどこに所属するかを決めている。そして、NJCAAは全米約500校の短期大学が加入する全米最大の短期大学の体育協会となっている。
ディビジョン-ディストリクト-リージョン-カンファレンス
ディビジョン
NJCAAもNCAAと同様に所属校をディビジョンⅠ、ディビジョンⅡ、ディビジョンⅢに分類している。
リージョン
NJCAAはカンファレンス制の代わりに地理的区分のリージョン制を採用している。NCAAの場合、各大学はキャンパスの立地に関わらず自分達の希望で所属ディビジョンとカンファレンスを決められる。一方、NJCAAの場合、各校はキャンパスの立地で計24区分のいずれかのリージョンにほぼ強制的に加入させられる。例えば、アリゾナ州の短大はいずれのディビジョンでもリージョン1の所属になる。しかも、一部のリージョンはディビジョン1を持っていない。例えば、リージョン3はD2とD3だけだ。つまり、ディビジョンも地理的理由で勝手に決められてしまう。
カリフォルニア州、ハワイ州、アラスカ州、メイン州、バーモント州、ニューハンプシャー州の短大はNJCAAに所属していない。カリフォルニア州はCCCAA(California Community College Athletic Association)の管理の下で州内だけでシーズンを運営している。
ディストリクト
さらに、NJCAAは独自に「ディストリクト」区分を設けている。NJCAA D1の男子バスケットボールの場合、ディストリクトは「大規模リージョンの独自ディストリクト」「中規模リージョンの合同ディストリクト」「小規模/例外的リージョンのディストリクト無し」の計16区分となっている。一方、NJCAA D2の男子バスケットボールの場合、ディストリクトは「リージョン12のA、B、Cの3分割分」や「リージョン16と24の『16Aと24A』『16Bと24B』の混合」で計15区分となっている。
スケジュール
NJCAAのシーズンは例に漏れずレギュラーシーズンとポストシーズンを採っている。RSは11月頃から本格的にスタートする。レギュラーシーズンの最初に約2カ月はノンカンファレンスシーズンとなっている。ノンカンファレンスシーズンは各チームがカンファレンス(リージョン)やディビジョンに関係無く自由に試合を組める期間だ。その後、年明け頃からカンファレンスシーズンと呼ばれるカンファレンス内のリーグ戦が始まる。
ポストシーズン
その後、リージョントーナメントとディストリクトトーナメントがスタートする。各ディストリクトトーナメントの優勝校はNJCAAトーナメントの出場権を獲得できる。そして、最後にNJCAA校王者毛一定戦のNJCAAトーナメントが開催される。出場校は「各ディストリクト王者16校」と「大会組織委員会推薦8校」の合計24校だ。各校には1~24位までのシード順位が振り分けられ、上位1~8位は1回戦はシードとなり、9位以降は9位 vs 24位、8位 vs 23位といった具合に最上位と最下位が対戦するよな組み合わせになっている。
最大の特徴: カレッジコーチ達の狩場
短大では数多くのNCAA D1レベルの選手がプレーしている。
NCAA D1級の選手が集まる主な理由は「金銭面」と「学力」だ。まず、一般的に短大は4年制大学よりも授業料や諸費用がはるかに安い。故に、全額支給の奨学金を貰えなかった学生が自宅から通える(=寮費が掛からない)短大に通っている。次に、NCAAは学力テストのスコアや高校時の成績等の学力基準を設けている。NCAAの学力基準を満たせずに学力基準の緩い短大に通わざるを得ない選手が相当な数存在する。その他にも素行不良で退学になった選手やプレータイムを求めている選手もいる。
一方、カレッジコーチ達が高校生よりも短大生を評価しているのも事実だ。理由は短大生の方が高校生よりも信頼できるからだ。高校生は戦力になるまでに時間を要する上、学力不足や素行不良などで大学生活を送る力がない可能性があるが、20歳前後の成熟した短大生は即戦力になり得る。しかも、彼らは短大を学力や素行に問題無く過ごした実績がある。だから、高校生よりも短大生を好むコーチも多い。
その結果、短大はカレッジコーチ達の狩場と化している。実際、短大生のランキングや優秀な短大選手だけを集めたショーケースも存在する。毎年、100~200名がNCAA D1校へと編入し、逆に色々な事情で多くのD1生がJUCOへと編入してくる。
JUCO出身のNBAプレーヤー
先述した通り、選手達が短大でプレーしている理由はバスケの実力不足ではない。だから、短大出身のNBAプレーヤーは星の数ほど存在する。多くは短大からNCAA D1校を経てNBA入りする。その中にはNBAでオールスターに選ばれた選手も数多く存在している。現役選手の代表格はジミー・バトラーだ。バトラーは高校卒業時にD1校からオファーが無く、地元のタイラーカレッジに進学し、そこでのプレーが評価されて強豪マーケット大学へと編入した。
レンジャーカレッジ
2019-20: レンジャーカレッジ
2020-21: レンジャーカレッジでプレー
2021年5月: レンジャーカレッジを卒業&ネブラスカ大学へ編入
2021年5~8月(夏休み中): ネブラスカ大学でトレーニング&勉強
2021-22: ネブラスカ大学でプレー
基本情報
レンジャーカレッジはNJCAAリージョン5所属(テキサス州北部)の短期大学だ。2015年、ビリー・ギリスピー(Billy Gillispie)が”都落ち”の形でHCに就任した。同氏は2000年代にテキサスA&M大学で2度のビッグ・12・カンファレンスの最優秀コーチ賞に輝き、2007年に超名門ケンタッキー大学HCに就任したものの、僅か2年で失脚し、移籍先のテキサス工科大学でも失敗し、2012年にメインストリームから干されてしまった。そして、同校は元一流HCの手腕で着実に強豪へと変貌し、2018-19にはNJCAAトーナメント準優勝を果たし、HC自身もNJCAAの最優秀コーチ賞に輝いた。
2019-20: アメリカでもエリートシューターぶりを証明
2019年、富永選手はテキサス州北部のレンジャーカレッジ(Ranger College)に進学した。結論、富永啓生選手米国1年目は傍から見れば順風満帆だった。富永選手はシーズン開幕直後の11月に既にネブラスカ大学からオファーを貰い、同月中には2021-22からのコミット(入学意思の公表)を決め、最終的には31試合出場、16.8点、FG54%、3PT47.9%、FT85.5%とエリートシューターとしての力量を証明した。一方、レンジャーカレッジは28勝2敗の圧倒的な成績でRSを終えた。その後、同校はリージョナルトーナメント1回戦でまさかの敗退を喫してしまったものの、RS中の好成績を大会組織委員会に評価されたため、NJCAAトーナメント出場を果たした。そんな矢先、同大会は新型コロナウィルスの直撃で中止になってしまった。その後、HCビリー・ギリスピーがターレントンステイト大学へ行ってしまった。同校は翌2020-21からNCAA D1に昇格している。
2020年11月: NIL(契約書の”ような”手紙)に署名
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— 富永 啓生/ keisei tominaga (@KeiseiTominaga) November 12, 2020
嬉しい報告です!
今日、正式にネブラスカ大学にサインをしました!来シーズンから一つの夢であったNCAAでプレーをします!
それまでにもっと成長していいプレーを見せれるように頑張ります🔥#Nebraska #2k20 😂😂 https://t.co/ewmYTsVm8D
NLIにサイン
選手→最低1年間はその大学に通うことを約束
大学→その選手の全費用(入学金、授業料、食費、寮費、教科書代等)を負担することを約束
2020年11月、富永啓生選手はネブラスカ大学のナショナル・レター・オブ・インテント(National Letter of Intent)にサインした。通称NLIは「署名者: 当該大学の最低1年間の通学」「大学: 当該選手の大学生活費の全額補填」の旨の契約書の”ような”手紙だ。しかも、他大学はNLI署名者をリクルートできなくなる。一方、法的拘束力は無い。署名の撤回は双方共に可能だ。極端な話、署名の絵面欲しさの儀式的意味合いが強い。
2020-21: レンジャーカレッジ(短大)
2020-21はコロナの影響で2021年1月~4月の短縮シーズンとなった。2020-21、レンジャーカレッジは昨季からの戦力ダウンに苦しみながらもディストリクトトーナメントを勝ち上がってNJCAAトーナメントに進出し、本戦では2回戦でジョン・A・ローガン短大をアップセットし、準々決勝も制してファイナル4進出を果たした。富永啓生選手は27試合出場、平均16.3点、FG51%、3PT48.7%、FT88.3%を残し、オール・トーナメント・チーム(12名)とNJCAAオールアメリカ・セカンドチームに選出された。
2021年5月: レンジャーカレッジ卒業
Proud of these 7 graduates of Ranger College. What a beautiful Journey. pic.twitter.com/w7DjU8FGJH
— Larry Brown (@LarryBrownlar44) May 1, 2021
そして、2021年5月、富永啓生選手は無事短大を卒業した。一般的なカレッジアスリートは5月中にキャンパス付近の寮やアパートに入って新学期開始の8月末までキャンパス内でトレーニングやサマークラスに励む。一方、富永啓生選手は東京五輪のスリーオンスリーのために一時帰国した。
今後の富永選手: NCAA D1ネブラスカ大学へ
今後の予定
2021年5月: レンジャーカレッジを卒業&ネブラスカ大学へ編入
2021年5~8月(夏休み): ネブラスカ大学でトレーニング&勉強 or 五輪帰国
2021-22: ネブラスカ大学でプレー
ネブラスカ大学: 強豪カンファレンスの弱小校だが強くなる可能大!!
- 超強いカンファレンスに所属
- カンファレンス内の残念な方
(NCAA D1全約350校中100~150位) - しかし、フレッド・ホイバーグがHCに就任
=これから強くなる可能性大!!
そして、2021-22シーズンから富永選手はネブラスカ大学の一員としてNCAA D1の舞台でプレーすることになる。
ネブラスカ大学の強さは「上の下」だ。
まず、ネブラスカ大学は強豪校が集うビッグ・10・カンファレンスに所属している。ビッグ10はガチの中のガチのカンファレンスだ。ミシガン大学、ミシガンステイト大学、オハイオステイト大学、インディアナ大学等がNCAAトーナメント制覇を目指した大学ばかりが所属している。無論、毎年何人ものNBA選手がこのカンファレンスから誕生している。
しかし、ネブラスカ大学はビッグ・10・カンファレンスの中の残念な方と呼ばれているのが現状だ。ビッグ・10・カンファレンスは実は14校が所属しているのだが、バスケットボールでは「強いチーム10校」と「そうでもない4校」に分かれていて、ネブラスカ大学はペンシルベニアステイト大学、ノースウェスタン大学、ラトガース大学と共にそうでもない内の1校となっている。但し、NCAA D1全体(350校以上)の中では100~150位付近と決して弱い訳でも無い。
しかし、ネブラスカ大学は強くなる可能性が大いにある。と言うのも、2018年にフレッド・ホイバーグがHCに就任したからだ。ホイバーグはシカゴ・ブルズで失敗した印象が強いと思うが、実はそのホイバーグがブルズに雇われるきっかけとなったのが彼のアイオワステイト大学での実績だ。
アイオワステイト大学は現在のネブラスカ大学と同じ様にパワーカンファレンスに所属していながらあまり強くないチームだったのだが、ホイバーグはコーチングキャリア僅か2季目の2012年にチームを7年振りのNCAAトーナメント出場に復帰させ、2014年には同大史上4度目のスウィート16進出に導いたのだ。
つまり、ホイバーグの採用はネブラスカ大学がバスケットボールに本腰を入れ始めたことに他ならない。富永選手はそんなホイバーグの目に留まった訳である。
コロナ救済措置: 最大3シーズンプレー可能に
Yes. All junior college players were granted a free year of eligibility, so this season does not count toward his four years.
— Robin Washut (@RobinWashut) April 19, 2021
しかも、富永選手は2021-22~2023-24の計3シーズンプレーすることができる。NCAAでは原則的にはあらゆるカレッジキャリアを合計して4シーズン以内の選手しかプレーできず、富永選手は既に2019-20と2020-21の合計2シーズンをプレーしているのだが、2020年、NJCAAは2020-21の全選手のプレーシーズンをカウントしないことを発表し、NCAAもNJCAAの判断を追認したため、富永選手は登録上は2019-20シーズンだけしかプレーしていないことになり、本人が望む限りではNCAAで3シーズンはプレーすることが可能となった。
まとめ
- 富永啓生選手
- NJCAA
- レンジャーカレッジ時代
- 今後
ネブラスカ大学: 強豪カンファレンス内の弱小校
コロナ救済措置: 3シーズンプレーできる可能性
レッドシャツ: 2021-22全休の可能性
富永啓生選手は2021-22シーズンからNCAA D1のネブラスカ大学への編入予定のハイスコアラリングガードだ。
ネブラスカ大学はNCAA D1全体(約350校)で上の下に相当するものの、超強いカンファレンスに所属しているためにこれまではなかなか勝つことができないでいたが、2019年に元シカゴ・ブルズHCのフレッド・ホイバーグを採用してバスケ部強化に本腰を入れ始めたチームだ。つまり、富永選手はそのネブラスカ大学の伝説の始まりのメンバーとして見込まれた。
富永啓生選手は2019-20と2020-21の直近の2シーズンはNJCAAのレンジャーカレッジでプレーしていた。NJCAAはアメリカ国内の短期大学の運動部を統括している大学体育協会である。一般的に「アメリカの大学スポーツ=NCAA」と認識されているが、NCAAはアメリカの複数存在する大学体育協会の1つに過ぎず、NCAAよりも歴史が古いNAIA、全米の短大が所属するNJCAA、キリスト教系大学のNCCAA等、NCAA以外にも大学体育協会はいくつも存在し、各大学は自分達の判断でどこに所属するかを決めている。
しかも、アメリカの短大バスケ界はNCAA D1級の選手が学業不振や素行不良や経済的な理由でゴロゴロいるため、決してレベルが低い訳では無く、むしろNBA選手の中にも短大経験者は星の数ほど存在する位にハイレベルである。富永啓生選手は1年次から才能を遺憾なく発揮し、2020-21にはコーチの交代やコロナの影響でストレスも多い中、チームをNJCAAトーナメントのファイナル4進出に導き、自身はNJCAAのオール・アメリカ・チームに選ばれた。
そして、2021年5月、富永選手は無事にレンジャーカレッジを卒業した。今後は東京五輪の3オン3代表として一時帰国するらしい。
さらに、実は富永啓生選手はネブラスカ大学で3年間プレーできる可能性が出てきた。通常、NCAAで選手は4シーズンしかプレーできないのだが、NJCAAがコロナによるシーズン短縮の救済措置として2020-21を1シーズン分としてカウントしないことを発表したからだ。但し、もしNCAAがNJCAAの救済措置を認めなかった場合は通常通り富永啓生選手は2年間しかプレーできない。
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NCAA基礎講座
大学一覧
バスケ留学解説
NCAAの視聴方法
参考
Keisei Tominaga(247sports.com)
Organization of NJCAA Regions(njcaa.org)
Divisional Structure(njcaa.org)
2020-21 NJCAA Division I Men’s Basketball District Championships(njcaa.org)
2020-21 NJCAA Division II Men’s Basketball District Championships(njcaa.org)
2020-21 NJCAA Division III Men’s Basketball District Championships(njcaa.org)
BILLY GILLISPIE(tarlentonsports.com)
2019-20 NJCAA DI Men’s Basketball Rankings(njcaa.org)
2019-20 Ranger College Men’s Basketball Schedule(rangersports.net)
Keisei Tominaga(rangersports.net)
National Letter of Intent(nationalletter.org)
NJCAA COVID-19 update – spring sports season cancelled(njcaa.org)
2020-21 Ranger College Men’s Basketball Schedule(rangersports.net)
Keisei Tominaga(rangersports.net)
Tominaga, Saterfield named to all-tournament team(rangersports.net)
2020-21 NJCAA Division I Men’s Basketball All-America Teams(njcaa.org)
NJCAA blanket waiver ensures juco athletes won’t lose eligibility in 2020-21 season(espn.com)
NJCAA announces 2020-21 eligibility status(njcaa.org)